あの日、僕が得たものは。

 地面に落ちていたそれは、ぴいぴいと鳴いていた。持ち上げて良く見ると、燕のヒナだった。手の中にすっぽりとおさまっている命は暖かかった。自分よりもずっとずっと小さい命に触れるのは初めてだ。感動とも恐れとも違う、よく分からない感情が僕を襲った。
 この宝物のことは僕だけの秘密。誰にも教えてやらない。

 僕はそのまま裏道を歩いた。手の中からぴいぴいと声が聞こえる。ああ、煩いなあ。誰かに見付かるじゃないか。そうなれば、きっと僕はこの宝物を取り上げられてしまう。
 僕の考えている事も知らずに、鳴き声はどんどん大きくなる。そして……そして僕は……

 白くて大きい貝殻で穴を掘る。さっきまで暖かかったそれは、冷たくて硬いただの塊になっている。そっと持ち上げると、異様に軽く感じた。命の重さなんて、こんなものか。

 貝殻で砂をかける。まだ一度も羽ばたいたことの無い翼が砂に埋もれていく。

 そこから立ち去る気になれず、僕は貝殻を持ったまま砂の山を見つめていた。
 しばらくそうしていると、少し離れた所から僕を見ていた少女が近づいてきた。彼女はそっと手を合わせると、「お兄ちゃんて優しいんだね。」と言い、恥ずかしそうに去っていった。きりり。と、痛みが走る。

 もしも「この小さな命を奪ったのは僕だ」と言ったら、彼女はどんな顔をしただろう。怖がるか、軽蔑するか。……いや、汚れるのは僕だけでいい。
 そっと手を見ると、つい数十分前と何も変わらないように見えた。砂粒一つ付いていない綺麗な手。だけど、もう、この手は罪に汚れた手。

 でも、僕の日常は変わらなかった。ご飯を食べて、学校へ行って、友達と笑いあって……何一つ変わらない。

 あの日、僕が得たもの。小鳥の囀りに似た耳鳴り。自分だけの宝物を手に入れた悦び。汚れた手。虚しさ。そして、壊れていく何か。

05/08/22


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