慟哭

 茶色い風が吹き、申し訳程度に生えている草が揺れる。風は嫌いではないし、むしろ好きなほうだ。しかし、どうしてもこの風だけは好きになれない。血の匂いと泣き声を運んでくる、戦の後の風だけは。

 泣き声の主は、幼い少女だった。今にも壊れそうな家の前で、ただ一人で泣いている。やせ細った体のどこにそんな力があるのかと思うほど、大気は激しく揺れていた。まるで、残りの命全てを声にしているかのように見えた。
 私が近づいてきたことに気付いているだろうが、彼女はただ泣きじゃくっている。傍らには幾人かの亡骸があり、その中の一人には見覚えがあった。年恰好からすると、彼女の父親だろう。戦場から運んできたのか、彼の足元には引きずった跡があった。彼はこの村の戦士だった。そして、この戦で死んだ。私の剣によって。
 彼女らの村は貧しく、一家の働き手が死ぬことは家族全員の死と等しい。力の無い者は死に、残された者も気が狂って死んだ。この少女は最後の生き残りなのだろうか。
 気が付くと、泣き声は止んでいた。真っ黒な瞳が私を見ていた。睨むでもなく、恨み言を言うでもなく、ただ真っ直ぐに見ていた。しばらく見つめ合った後、彼女はゆっくりと横たわった。
 そして、そのまま起き上がることは無かった。

 私が直接この手にかけた者は、せいぜい十数人ほどだろう。しかし、私は一体何人を殺したのだろうか。いや、そんなことを考えてもどうしようもない。感傷に浸っていられるほど、この世界は甘くない。生きるためには仕方がないことだ。
 天を仰ぐと、真っ青な空が広がっていた。赤茶けた地面とのあまりの違いに、なぜか無性に泣きたくなった。

 ひとつの泣き声が消え、風がまたひとつ泣き声を運んできた。
07/03/03

元は詩でしたが、ちょこちょこ直してるうちに小説になりました。

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