101 騙す
私は、幼少の頃から少しばかり秀でていた。
そのせいだろうか。周りが何を求めているのか、うっすらと分かった。
それに気付かない振りをして、自分を演じ続けた。
望まれるのは正しく模範的な回答。
自分の考えなど必要ない。
「私」などいらないのだ。
「私」の周りを硬い殻が覆った。
正しく、模範的な殻が。
悲しい生き方だと思われるかもしれないが、
周りの反応が良いし、何より私は間違うことを恐れていた。
これ以外の生き方など知らなかった。
それから十数年間、私はこうやって生きてきた。
やがて、自分の考えを求められた。
その問題には正しい答えなど存在しない。
殻を少し壊して、中をのぞいてみた。
いつの間にか、何もなくなっていた。
ああ、「私」はどこへいってしまったのだろう。
これは、周りを欺き続けてきた罰なのだろうか。
それとも、自分を偽り続けた報いなのだろうか。
〜ある青年のさいごの手記〜
06/04/14
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