108 解放


満点を取らなくても、誰かより上なら良かった。
1番にならなくても、私の下に誰かがいれば良かった。

人を追い抜くことに夢中になって、私は「私」を落とした。
振り返っている暇はない。皆に追い抜かれる。
落とされた「私」は、遠ざかる私をただ見ていた。
恨みもせず、憎みもせず、ただじっと見つめていた。

「私」が消えてしまう前に、私は「私」の元へ行かなければ。
分かってはいる。けれど、私は走り続ける。
一番後ろになることが、どうしようもなく恐ろしい。

たくさんのものを落としながら。ぽかりとあいた穴を広げながら。
私は走り続ける。休む暇はない。振り返る暇もない。

私はどこへ向って走っているのだろう。
いや、どこだってかまわない。
辿りつく頃には、きっと私は穴に蝕まれてなくなっている。
その時、やっと私は休めるのだ。


〜ある青年の手記 破り捨てられたページ〜



06/05/01

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