ZERO
2-3 目からビーム☆

「では、これから昼食の時間とします。しっかりと食べて、午後からの野外活動に備えましょう。班長は食材のかご、副班長は道具のかごを取りに来てください」
 午前中の講義が終わると、講堂からキャンプ場へと続く道は、にぎやかな声に包まれた。
「ねえ、校長先生の話さあ、めっちゃ長くなかった?」
「だよなー。えー君たちは、えー本学園の生徒となったことに、えー誇りをもち、あー」
「うわ、お前似すぎ。やばいまた寝そう」
 そう言うと、男子生徒は眠そうに目をこすった。どれだけ大事な話でも、長いと飽きるし眠くなる。結花のせいで長話に慣れたのか、望月はいつもと変わらないように見える。

「ほいよっと! お肉と素敵な仲間たちの到着だよー」
「何でお前はそんな元気なんだよ……」
 月夜が呆れたような声で聞く。
「だってあたしは若いから! つきやんがじじ臭いだけだよ。それより早くバーベキュー! 肉! ミート! ビーフ!」
 立候補で班長になった結花が、張り切って仕切る。
「ではでは、火を点けまーす! ちょっと下がっててね〜。……ひっさぁーつ☆目からビーム!」
 『目からビーム』とは、名前の通り目(厳密に言うと目の付近)から光線を出すことだ。最も意識を集中させやすい手から出すのが基本なので、これを習得するのはやや困難だ。しかし、「だって楽しいんだもん。笑いが取れればオッケ〜イ!」という理由だけで身に着けたらしい。
 ちなみに、日常生活における実用性は全くない。
「…………」
 結花のテンションについていけない者は、ただ呆然としていた。

 食材が焼けるまでは結花と月夜が「タレの味について」を言い争っていたが、食事が始まると、ゆったりとした時間が流れていった。
 しかし、食事が終わりに近づいた時、近くの茂みががさりと揺れ、猪のような魔物が出現した。何かに追いかけられているのだろうか、土ぼこりを上げながら走っている。そして、そのままバーベキューセットへ突っ込んだ。
「魔物!? なんでこんな所に!」
 今は魔物が人前に姿を現すのは珍しいため、生徒はパニックに陥る。しかし、それは魔物も同じで、怯えたように暴れ回っている。地面にはバーベキューの材料や道具が散乱していく。
 数分もしないうちに、油やタレを纏った魔物に引火した。あっという間に近くの草に燃え移り、辺りは赤に包まれる。
 揺れる炎。悲鳴。生き物が焼け焦げる嫌な臭い。苦しそうな呻き声。それら全てが引き金となり、望月は五年前に引き戻された。
「危ないから、皆は下がりなさい!」
 引率の教師によって、魔物は周囲の地面ごと氷漬けにされた。幸い怪我人は出なかったが、望月の目には違う光景が映っていた。
「燃える……燃えてく……庭も……みんなも……はくと、も……」
 そう呟く望月の目は焦点が合っておらず、どこか遠くを見ているようだった。顔からは血の気が引き、目を見開いたまま、呆然と立ち尽くしている。
「望月! 落ち着け! 大丈夫だから!」
 同様に青い顔をした月夜が叫ぶ。しかし、その叫びは望月の耳には届かなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい! ごめん、なさ……」
 望月は狂ったように謝り続け、倒れこんだ。


「ヒナっち、どうしたんだろ。いきなり気絶して……つきやんも、変。何があったの?」
 保健室として割り当てられた部屋で、結花は心配そうに呟く。視線の先には、ベッドで寝ている望月がいる。その唇は震え、うめき声の中に、ときおり「ごめんなさい」と謝罪が混じる。
「……あいつは、自分のせいだと思ってるんだ。白兎が、ああなったこと……」
 月夜は、青い顔のまま答える。
「はくと? えーっと、あー、ああ、つきやんのイトコ? だっけ? その人と、何かあったの?」
「……口で言うより、オレの記憶を見せた方が早い」
 そう言って、月夜は結花の頭に手をかざした。事態を飲み込めていない結花が目を瞬かせる。月夜がゆっくり意識を集中させると、淡い光が結花を包んだ。
18/08/19

久しぶりに更新しました。次はこんなに間が開かないようにしたいですね。

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