ZERO
2-1 幸福な既視感

「ねえねえ、あとちょっとしたら合宿だね! たっのしみ〜」
 結花の声が、教室のドアを通り、月末テストの成績が貼られた廊下に響く。合宿と言っても勉強のためなのだが、イベント事が好きな結花は心の底から嬉しそうだった。虚ろな目をした月夜は、机に置かれたテスト用紙とにらめっこをしている。
「うん、そうだね。……月夜、大丈夫?」
「4位のつきやん、だいじょーぶ〜?」
「ああ……ダイジョウブだ。4は死を連想させて不吉だなんて昔の迷信だよな」
 明らかな棒読みで返事し、生気の無い顔でぶつぶつとつぶやく。
「ヒナっち〜、つきやんなんかほっとこうよ〜。また『変な奴』に負けて、すっごいショックだろ〜からっ!」
 かなりきつく『変な奴』のところを強調している。この分だと、しばらくは根に持っていそうだ。
「……何でそんなに仲悪いの? 二人とも。仲良くすればいいのに」
「「誰がこんなヤツと!」」
 二人の声がぴったりと重なる。しばらく小競り合いをしていたが、突然、結花が悪戯を思いついた子どものように笑った。
「そーだよね〜、つきやんはフツーの人だから、『変な奴』のあたしなんかとは仲良く出来ないよね〜」
 含みのある言い方が気になったが、月夜も負けじと言い返す。
「自分で『変なヤツ』って分かってたのか。ちゃんと自覚はあるわけだな」
「その『変なヤツ』にまた負けたのは、どこの誰でしたっけ〜? つっきや〜ん?」
「ぐ……その変なあだ名で呼ぶな!」
「あー! 話はぐらかした〜。あたしの勝ち〜!」
「もう、どうでもいい……」
 相変わらず愉快な二人である。そんな2人のやり取りを聞いて、クラスメイトたちはくすくす笑っていた。
 望月の頭の中に小さい頃の思い出がよみがえり、頬が緩みそうになる。しかし、そんな自分に気付いた途端、顔から一切の感情が消える。そして、戒めるように、心の中で同じ言葉をくりかえす。――幸せだった、あの時を思い出しちゃだめ。私は、幸せになっちゃいけない。
 ぴくりとも動かない表情は、陶器の人形を思わせる。唯一、風に遊ばれた髪だけが動きを見せた。
10/05/05


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